ジフェンヒドラミン

概要

ジフェンヒドラミン(Diphenhydramine)は、第一世代のヒスタミンH₁受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)であり、主にアレルギー症状の緩和や睡眠補助、乗り物酔いの予防などに用いられる医薬品である。1943年に初めて合成され、以降広く使用されている。日本では「レスタミン」などの商品名で市販されており、OTC(一般用医薬品)として入手可能である。

過量摂取時には中枢神経系に対する強い抗コリン作用を示し、幻覚や錯乱を伴う「デリリアント」としての性質を持つため、一部では向精神目的での乱用が報告されている。

主観的効果

ジフェンヒドラミンの主観的効果は用量により大きく異なる。通常用量では眠気や軽度の鎮静が中心であるが、高用量では幻覚・錯乱といった重度の中枢神経症状を伴うことがある。特に高用量時には**デリリアント(譫妄性幻覚剤)**としての作用が顕著となる。

報告される主観的効果には以下が含まれる:

  • 催眠・鎮静:強い眠気と倦怠感
  • 精神運動抑制:集中力低下、反応遅延、言語能力の低下
  • 実体幻覚:人物・物体・音声などが実在するかのように感じられる幻覚。現実との区別が困難
  • 視覚歪曲:物体の波打ち、影の動き、テキストの読解困難
  • 健忘・錯乱:時間感覚の喪失、目的の忘却、自分の行動を覚えていない
  • 不快感・被害妄想:不安感や追跡妄想、重苦しい身体感覚
  • 身体症状:運動失調、乾き、尿閉、便秘、動悸、震え、筋硬直

これらの効果は個人差が大きく、特に高用量での使用は「悪夢のような体験」と形容されることが多い。

依存と乱用の可能性

ジフェンヒドラミンは身体的依存性は極めて低いとされているが、以下の点から乱用のリスクが存在する:

  • OTC(一般用医薬品)として容易に入手可能であること
  • 「合法ドラッグ」として認知され、好奇心による乱用が若年層を中心に報告されている
  • 不眠時の常用や、幻覚目的での反復使用による心理的依存の形成

乱用者は次第に用量を増やし、日常生活に支障を来すようになることがある。また、抗コリン症状による後遺障害(記憶力低下、抑うつ症状など)を訴える例も報告されている。

過剰摂取

ジフェンヒドラミンの過剰摂取は、急性の抗コリン中毒症状および中枢神経抑制/興奮作用を引き起こす。致死的なケースも存在する。

主な症状:

  • 中枢神経症状:幻覚、錯乱、興奮、昏睡、痙攣、健忘
  • 末梢症状:頻脈、高熱、顔面紅潮、散瞳、乾燥肌、排尿困難
  • 心毒性:QT延長、不整脈、心停止(特に700mg以上で危険)

致死量は成人で約1000mg以上とされるが、感受性の強い個体ではより少量でも重篤な症状を示す可能性がある。

治療には活性炭の投与、ベンゾジアゼピン系の鎮静薬などが用いられるが、後者は専門的判断のもと慎重に投与される。

危険な相互作用

ジフェンヒドラミンは以下の薬物や物質との併用で重篤な副作用を引き起こすことがある:

  • アルコール:中枢抑制作用が相乗的に強まり、呼吸抑制や意識消失のリスクが増大
  • ベンゾジアゼピン系・睡眠薬・オピオイド:鎮静・呼吸抑制の相乗作用による致死的リスク
  • 他の抗コリン薬(例:アトロピン、スコポラミン):抗コリン症状の重複による錯乱・痙攣・高体温
  • MAO阻害薬・SSRI・抗うつ薬:セロトニン症候群やQT延長リスクの増加
  • 抗精神病薬:QT延長、痙攣閾値低下、抗コリン症状の悪化

 

特に多剤併用の状況では、自己判断による摂取は極めて危険である。